BABY'S Milton ミルトン
4月になって新たに集団保育を始めるこどもたちもいることでしょう。こどもが小さいうちは母親が育てるべき、という意見も相変わらず根強くあるようです。
一方、アメリカの国立小児保健人間発達研究所が行なった最近の研究結果によれば、こどもの早期保育において、専業主婦である母親だけが子育てをするのと、保育所での保育士も加わって子育てをするのとでは、単純にはどちらが良いとも悪いとも言えない、という結論が出ています。
ヒトは長い時代にわたって、母親を中心に大家族制の中で地域社会に密着して子育てをしてきました。核家族の専業主婦である母親がたった一人、24時間体制で子育てを一手に引き受けて、母子2人だけが閉鎖的な時間空間におかれがちな現代の状況の方が、むしろ特別で不自然であるとも言えます。
一人のこどもには、一人の母親しかいません。あたりまえのことですが、母親の代わりは誰にもできません。ただ、母親一人だけでできることにも限界があります。母親が職業に就くか就かないかは別としても、母親を中心に父親、祖父母、地域の人たち、そして保育士が、お互いに補い合って、多くの人が一人のこどもとかかわって生活していくこと。それは、ごく自然なことであり、また、こどもにとっても母親にとっても多くのメリットがあると考えます。
脳神経学的にも裏付けられていることですが、3、4歳頃になると、こどもは他人の心を理解することが可能になってきます。でも、そのためには、それまでにこどもがまわりの大人たちから、十分に気持ちを理解してもらい、十分に愛情を注がれてきていることが必要です。早期保育の問題点はまさにそこにあります。
問われるのは、母親とすごす時間の量ではなくて、いかにすごしたかの質です。それは保育所での保育士とのかかわりあいについても同じことが言えます。こどもが1対1で向かい合っている人との間に、あたたかな心の交流をどれだけ持てたかが、もっとも重要なことです。
たとえ1日中、母親と一緒にいたとしても、長時間テレビの前にすわっているだけだったり、あるいは、インターネットに熱中してパソコン画面の方を向いたままの母親の背中をながめているだけだったり、なんてこともあるかもしれません。これではこどもの感性は育ちにくく、他人の心を理解できるようになるのもむずかしく、望ましい子育て環境とは、言えないでしょう。
母親もまた、一人の人間として自己実現するために、職業に就きたい、趣味の時間を持ちたい、また世のため人のためボランティアに参加したいなどなど、さまざまな思いがあって当然です。子育てとの両立はなかなか困難な面が多いため、母親だけが孤軍奮闘してしまうか、自分自身の希望はあきらめて、しかたなく子育てしている、という状況におちいりがちです。
子育てを社会化していくこと。こどもが育つ過程で、いろいろな人たちからプラスのエネルギーをたくさん与えられるチャンスを用意してあげたいものです。こどもが保育所ですごす時間も、そのように意義深いものであれば、お母さんと離れている時間がある程度までであるならば、むしろこどもの成長に良い影響を与えるものだと思います。
2001年 4月 『子育て待合室』文芸社 刊より
岩田裕子先生1977年、千葉大学医学部卒業。
千葉県内の病院で小児科勤務医として研鑽したのち、1994年、千葉市にて小児科クリニックを開業。
2004年~2008年 千葉市小児科医会会長
2008年 千葉市医師会 理事
