BABY'S Milton ミルトン
「三つ子の魂百まで」と昔からの言い伝えがあります。3歳のころの心はそのまま100歳までも続く、といった意味だと思います。このことが、大脳生理学的にほぼ正しいことがわかってきているようです。日本小児科医会主催の「子どもの心研修会」が6月にあり、勉強をしに行ってきました。
こころのありかが、心と書いても心臓にはないことは誰でも知っています。心の動きは、脳の中での神経の働きによるものなのです。3歳までに体験したことは、まだ脳が未発達なためヒトの記憶には残らずに、深く深く意識の底に沈みこんでしまいます。そしてその後にでき上がっていく自我をコントロールする「超自我」として、無意識のうちに大きな役割を果たすことになります。
ヒトは何かの行動を起こそうとする時に、背中を押してくれる自分と、なぜかストップをかけようとする自分がいることに気がつきます。
たとえば、誘惑にかられてちょっとイタズラや悪いことをしちゃおう、と思いたった時に、もう一人の自分が心の中で、ソンナコトヲシテハイケナイ、と突然叫び出すために、悪いことをせずにすむ、という経験がよくあると思います。
その、いわゆる「もう一人の自分」が「超自我」です。非常に強い欲望、衝動ともいえる、強く突き上げてくるような心の動き(キレルともいう?)をコントロールするのも超自我の働きです。無意識のうちに働く心の動きです。
この超自我は、成人になってからの自我とは違って、両親の価値観や社会の規律などの影響を強く受けています。いわば、「小さいころの育ちがモノをいう」のです。だから親は、しっかりと子をしつける必要があります。
そして思春期になって、他人とは違う自分であるところの自我を形成していく時にも、この超自我は心の奥深くにあって監視を続けているのだそうです。
この「超自我」が、3歳までにほぼでき上がるというのです。
3歳までの記憶に残らないような乳幼児期に、愛情に満ちた環境で育てられると、その子は生涯にわたって他人に対しても温かく接することができて、内面的には穏やかな生活を送ることができます。
一方、強いストレス下に置かれると、たとえ新生児期であっても、ホルモンの働きを介して脳のある部分に無意識のうちに記憶され脳の発達を妨げてしまうので、精神面でも影を落とすことになりかねません。
まだ形の定まらない小さなこどもの心が、いかにデリケートなものかがよくわかると思います。全く無形の状態から、すぐ近くにいる人間の及ぼす作用で、どんな形にもなってしまうこどもの心。それだけに、子育てはきわめて責任重大だけれども、これほどクリエイティブな仕事はない、といつも思うのです。
こどもが生まれてすぐの頃から、たくさんの愛情をそそぎこむのと同時に、善悪の判断をきっちり教え、ある時には、じっとガマンすることも覚えさせていくこと、このうちのどれが欠けてもうまくいきません。ほどよくバランスを保ちながら、根気よくこどもと向き合うことです。そんなことをしながらいつの日か、新米の親自身も本当の親らしく成長していくのだと思います。
これは、2000年夏に岩田こどもクリニック待合室に掲示されたエッセイです。
岩田裕子先生1977年、千葉大学医学部卒業。
千葉県内の病院で小児科勤務医として研鑽したのち、1994年、千葉市にて小児科クリニックを開業。
2004年~2008年 千葉市小児科医会会長
2008年 千葉市医師会 理事
